書評8『AI救国論』大澤昇平

書評

こちらもブックオフの新書コーナーで購入。著者は東京大学最年少特任准教授。
読後に調べてみると何やら炎上発言で世間を賑わしていたらしい(SNSに無知な私は全く知らなかった)。
賛否両論非常に多いが個人的には「面白い!」と思う箇所が結構あったのでレビュー。

著者が語る「大学受験のジレンマ」

本書で著者が記す最大の持論は「スキルは希少価値が無いと意味がない」
幼少期からプログラミングに取り組み、大学進学ではなく高専という道を選び、数々のコンテストで入賞し、筑波大学、東大院の博士課程を経て上記職に就いている。

著者は自らの成功の要因を、「苦手なことで時間を無駄にしないよう徹底的に取捨選択してきた」
からだと語る。

現在日本の学校教育は、大学進学、具体的にはセンター試験やその先の二次試験で良い点を取るための詰め込み型教育が採用されている。
知識を詰め込んだ結果第一志望の大学に入れたとしても、1~2年次はサークル活動に精を出し、
3年次からは就活、4年次には少しの卒論と卒業旅行とほぼ学び以外の要素で大学生活が構成され、
社会人として必要なスキルは社会人一年目にこれもまた詰め込みで習得する(特に文系学生)。

一方で、高専に進学した人間は5年間かけて専門分野のスキルを磨き、その後3年次編入という形で
大学に編入学する。
特別なスキルを身に着けていない一般入学組と比較しても確かなスキルを身に着けている彼らは、
テクノロジストという面で周囲を圧倒する。
その結果、良い企業への就職も院進学も容易に行うことができる(←著者もこのパターンで学歴ロンダリングしている)。

上記の状況が示すように、日本の大学受験は優秀なテクノロジスト育成に対して大きな課題を持っている。
受験真っ只中の高校3年生がプログラミングを学びだしたら、大半の親が反対するだろう。
こんな教育下で社会に出てきた若手社員は、当然ながらITリテラシーを持ち合わせていない。

一方で、日本企業は急速なテクノロジーの変化に追いつくために様々な施策を行っている。
組織構造をいきなり変えることは難しいので、新部門の開設や子会社化などの方法をとり、
優秀な若手に重要なポストを任せようとしている。
こういった背景から、「日本の大企業は既に年功序列ではない」ことが窺える。

ただし、問題なのは「重要なポストに就くべき優秀な若手がいない」ことだと著者は説く。
上述のように”テクノロジスト”という観点で優秀な人材を育てられない今の日本式教育を、
「大学受験のジレンマ」と名付け問題視している。
高専に入学することは、こうしたジレンマを解決する方法の一つであると指摘している。

“エンジニア < コンサルタント” の構図

日本では、IT企業に務めるエンジニアの待遇が海外のそれと比べて著しく低い。
理由は明確で、海外のIT企業はBtoC領域を生業とするプラットフォーマーが主である一方、
日本のIT企業はBtoB領域を生業とするSIerであること主だからである。

海外でエンジニアとして活躍するには、まず①英語が使いこなせなければならない。
上述した「大学受験のジレンマ」的教育では、生きた英語を使いこなせる人材は中々育たない。
また海外ではユーザー企業にも優秀なエンジニアが在籍する場合がほとんどなので、②客先の
エンジニアに負けない高度なITスキルが求められる。
この2点をクリアする優秀な人材は市場からの需要も高く、プロスポーツ選手並みの年収を受け取る事ができる。

一方で日本のSIerでエンジニアとして働く場合、ユーザー企業にITノウハウを持っている人材がほぼいないことが海外企業との最大の違いである。
ユーザーの中にITに詳しい人間がいないため、システム周りのことはすべてSIer企業に丸投げとなる
(だから、日本ではSIerが存在感を示している)。
このような場合に市場から重宝されるのは、いわゆる”IT土方”としてコードを書くエンジニアではなく、ユーザーの要望を汲み取り、言語化し、完成図の枠をアウトプットするITコンサルタントのような職種である。

上記の理由で、日本ではエンジニアの待遇が他国よりも低い。
昨今では、新卒でSIer企業に入社してキャリアを積んだ後、テクノロジストとして外資コンサルに転職する人材も少なくない。
日本国内ではエンジニアが搾取される業界の構図が(今の所)出来上がってしまっているので、
優れたエンジニアが正当な評価を受けるには海を渡るかコンサルに転身するかのどちらかしか無い。

”水平思考”でイノベーションを見出す

日本の教育は文理を完全に分けてしまっているので、文系の人間は技術が分からない、
一方で理系の人間はイノベーションを興す思考法が分からないという課題がある。
イノベーションとは、「一見関係のない二つのことを結びつけること」である。
著者はイノベーションを生み出す思考法を「水平思考」と呼んでいる。
※詳細は『イノベーションのジレンマ』参照

所感~前半めちゃめちゃ面白い。後半読めない~

前半は書いてあることにも納得で今後の日本のIT産業がどのように立ち振る舞うべきか
議論のきっかけにできると思う。

具体的には、下記の理解を深めたい。

・教育改革が起こりAI人材が育つとSIer企業は生き残れない。対策は?
・日系IT大手は年収1,000万円で優秀な新卒エンジニアを採用している。
 海外の待遇にはまだ劣るから効果は薄い?
・エンジニアでもコンサルでもないセールス(営業職)のキャリアの考え方は?

第3章からの水平思考に対する論説も興味深かった。
ここは別途専門書で理解を深める必要があると感じた。

ただ後半からは、自分の所属していた研究室の自慢(?)や最新技術の紹介(?)が多く
話についていけなかった。
一般人と比べても特異なキャリアで昇進を果たした著者の自信が垣間見える一冊になっていると思う。

ネット上では賛否両論、むしろ「否」の意見のほうが多く見受けられたが、個人的には自分に無い視点で業界の課題、若者の課題、教育の課題を取り上げてくれたので良著であった。
※本なんて全部共感できるわけないし一つでも学びがあれば勝ちですしね……

あとプログラミングは今からでも勉強しようと思った。がんばる。

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