書評7『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治

書評

昨年7月初版発行以来、20万部突破のベストセラー。
著者は立命館大学産業社会学部教授の宮口さん。元公立精神科病院で児童精神科医として勤められ、後に法務省法務技官で少年院勤務という”児童精神科のエキスパート”です。

著者は長年非行少年たちと接していく中で、「後先のことを考えられない」「教育してもすぐに再犯してしまう」子どもの存在に気づくようになったそうです。

なぜ、非行少年が生まれてしまうのか?どのような教育が彼らを非行への道から守るのか?
児童教育を考える上での著者のエッセンスが詰まった一冊です。

発達障害と認知機能

何らかの罪を犯し、少年院などの施設に収容された子どもたち。
著者はある施設に赴き、認知行動療法(思考の歪みを修正する治療法)を試みます。
何度か治療を繰り返すうちに、気付いたことがあるようです。
それは「ワークブックを終えるたびに”わかりました””もうしません”と答えてくれる子どもが、
次に会うときは再び何らかの問題を起こしてしまっていること」。
認知行動療法は「認知機能という能力に問題がないこと」を前提に考えられた手法のため、
発達障害、知的障害を持った子どもは、いくら認知行動療法を試しても効果が期待できません。
しかし、発達障害では医療的な援助が与えられることはありません。
発達障害を持った子どもに医療的な見立てがされるのは、非行を犯し、警察に逮捕され、
司法の手に委ねられた後という悲しい現実があります。

学校では気付かれない非行少年

上記のような発達障害を持った子どもたちは、学校では「厄介な子」として扱われるのみで、
その障害について言及されることはありません。
中学生頃になるとその障害が顕著に表面化してイジメに遭い、そのストレスから非行に走ってしまうという例も少なくありません。
一方、小学校高学年から中学校くらいまでの間に熱心な先生と出会い、勉強の楽しさを知り、
「学校は楽しい」と感じ真っ当な人生を送る子どももいます。
非行は彼らが生まれ育った環境によって発生するので、非行を起こさないための学校教育は可能です。言い換えれば、子どもが非行に走り少年院に行くというのは”教育の敗北”です。

褒める教育の問題点

非行に走る子どもたちを作らないためには、早期からの発見と支援が必要です。
ただ、現在の学校教育は「個々人を褒める」というスタイルを取っています。
「褒める」「自身をつけさせる」は一時的には本人の気分を良くさせるかもしれませんが、
原因の根本解決とはなっていません。
「本人の苦痛だからやらせない」という教育手法もまた、子どもの可能性を潰していることになります。
子どもたちの「自尊感情の低さ」を補うためにこのような手法が取り入れらていますが、
そもそも「自尊感情の低さ」は問題ではなく、「自尊感情の評価が実情と乖離していること」が
問題です。
下記でまとめる非行少年の特徴を補う教育を施すことが求められます。

非行少年に共通する特徴5点セット+1

著者がまとめる非行少年の特徴は、下記のようなものがあります。

①認知機能の弱さ…見たり聞いたり想像する力が弱い
②感情統制の弱さ…感情をコントロールするのが苦手。すぐにキレる。
③融通の効かなさ…何でも思いつきでやってしまう。予想外のことに弱い。
④不適切な自己評価…自分の問題点が分からない。自信があり過ぎる、なさ過ぎる
⑤対人スキルの乏しさ…人とのコミュニケーションが苦手
+1身体的不器用さ…力加減ができない。身体の使い方が不器用

①が弱いと、頑張って勉強しようとしても理解が追いつかず、周囲からはふざけているように
見られてしまいます。
また「時間」を想像する力が乏しいと、長期的な目標を立てることができず何かに熱中することも
難しくなります。

②が弱いと、「認知」は「感情」のフィルターを通して発生するので物事が歪んで見えます。
特に「怒り」の感情をコントロール出来なければ冷静な思考を止めてしまうことに繋がります。

③が弱いと、「変に被害感が強い」子どもになってしまいます。誰かから不意に嫌なことをされたとき、「なぜあんなことをしたんだろう」と想像を膨らませることができず、「あの子は絶対に
自分のことを嫌っている」という思考回路に陥り、復讐を企てるかもしれません。

④⑤が弱いと、対人関係がうまくいきません。例えば悪友に罪を犯すことを強要され、それを実行に移したとき。その行為が悪友に褒められれば、「もっと認められたい」と再び悪事に手を染めるかもしれません。

どうすれば非行を防ぐことができるのか?

著者が大切だと説くのは「自己への気付き」と「自己評価の向上」です。
自分の中に「正しい自己規範」を作り、物事をその規範に当てはめて何が正しい、何が間違っている、と内省することが大切です。
自己内省をすることで「このままじゃ良くない。もっと良い人間になりたい」という思いが本人に芽生え、理想の自分に近づくことが出来ます。

また正しい自己規範を作るには、様々な体験や教育を受ける中で「自己評価が向上すること」も求められます。
先生や友達と過ごす環境の中で自分がどんな人間で、他人からどのように思われているかを正しく
認識し、正しい自己評価指標を持つことで、自分の中の善悪の判断を確固たるものにできます。

所感~幼少期の自分に当てはまりすぎてビビる~

本書で出てくる「非行少年の特徴」を改めて見直すと、幼少期の自分にそのまま当てはまる内容が多すぎて
びっくりした、というのが率直な感想です(みんな少なからず同じ感想なのかも)。

小学校では融通が利かず感情のコントロールができず、自分の正義をぶつけて喧嘩しまくるカタブツ少年でした。
中学校では自己表現が苦手になり自己評価がどんどん下がり、周りの様子を窺いながら過ごす陰キャ少年でした。

それが高校に入るとめちゃめちゃ厳しい部活に入り、血みどろ汗みどろの練習に耐えしのぎました。
3年次には主将を務め全国大会まで行き、ここで自分の中の自己評価が変わりました。

大学では文化系の部活に入りました。男女混合の環境、自分が指導する立場の環境を経験して、
自分は「人に教えるのが好き」というアイデンティティを生む事ができました。

そして今の企業に就職して、「成長したい」という思いを持ってブログを書いてます。
振り返ると高校からの環境が自分を変えてくれたと思ってます。そのような環境に身を置けたことはラッキーでした。

先日、橘玲さんの著書『言ってはいけない』で、「人の能力は遺伝で決まる」ことを知りました。
ただ個々人の能力ではなく、社会面・メンタル面は幼少期の環境、学校教育で大きく変わるものだと本書を読んで感じました。

私も25歳です。下の世代が教育を受け始めています。
自分が沢山の方々に支えられて非行少年にならずにすんだと(大袈裟ですが)考えれば、
次の非行少年を生まないためにもできることがあるのではなかろうかと、
今後の振る舞いを考えるきっかけになりました。

流石ベストセラーです。とっても面白いです。

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