書評4 『言ってはいけない 残酷すぎる真実』橘玲

書評

とある方にオススメ頂いたのでブックオフで購入。
著者の橘玲さんは小説、ノンフィクション、新書と多彩なジャンルを手掛ける。
著書『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』はベストセラー。日本版『金持ち父さん貧乏父さん』として
有名。

本書のカバーラベルには、こう著してある。
”この本の内容を気安く口外しないで下さい。遺伝、見た目、教育に関わる「不愉快な現実」”

人間がわかっているけど普段口にしない、残酷な現実~報われない努力、遺伝する犯罪癖、美貌格差など~を
進化論、遺伝学、脳科学の最新知見からあぶり出そうというのが本書の趣旨である。
読み終わった後は理不尽な世界の現実に落胆するが、納得感のある説明が展開されるのでなぜか気持ちのいい
読後感を味わえる。

社会が目を背ける「遺伝の効力」

①「やせた親からはやせた子どもが生まれる」
②「太った親からは太った子どもが生まれる」
③「親が陽気なら子どもも明るい性格に育つ」
④「親が陰鬱だと子どもも暗い性格に育つ」

上記4つの文を読むと、①はスッと飲み込める。②は少し抵抗を感じる。
③は納得がいくが、④は嫌な感じがする。
②と④の違和感の原因は、私達の社会に暗黙の規範があるからである。私達は無意識のうちに「太った子どもは醜い」と思ってしまっている。「根暗な子どもは問題がある」と思ってしまっている。
そしてこれも無意識のうちに、私達は規範からの逸脱を遺伝のせいにしてはいけないと思っている。
なぜなら、その逸脱は本人の努力や環境によって乗り越えられるはずという希望を抱いているからである。

この希望によって、問題を抱えている当の本人は深く傷付く。努力しても結果が出ないのに「もっと痩せろ」
「もっと明るくなれ」と社会からプレッシャーをかけられ続けるからである。

特に「勉強」という面に関しては、社会の態度は厳しい。成績(知能)は子どもの将来や人格の評価に直結するからである。
もしも「馬鹿な親からは馬鹿な子どもが生まれる」という遺伝が存在するのならば、「教育」は成り立たなくなってしまう。だからこそ、自然科学の研究成果とは無関係に「(負の)知能は遺伝しない」というイデオロギーが社会では必要とされる。しかし、行動遺伝学の研究成果で言えば知能のちがい(頭の良し悪し)の7~8割は遺伝で説明できることを示している。

「犯罪」についも実は同じことが言える。イギリスで1994年から3年間、5000組の双子の子どもたちを対象に反社会的な傾向の遺伝率調査が行われた。このうち、特に極めて反社会性の高い、教師たちから「矯正不可能」と言われた子どもたちだけを抽出すると、「冷淡で無感情」といった正確を持つ子どもの遺伝率は81%に及び、環境の影響は2割程度しかなかった。しかもその環境は子育てではなく友達関係のような「非共有環境」の影響であるとされるため、子どもの異常行動に対して親がしてやれることはほとんどない。

心拍数が証明する犯罪性

私達は、生まれながらにしてこころとは一見なんの関係もない生理的特徴によって人生を支配されているかもしれない。それが心拍数(1分間の鼓動の回数)である。イギリス、ニュージーランドなどで実施された経年研究によると、子どもの頃の心拍数の低さが後年の非行、犯罪の予測因子になることが示された。
心拍数の低さは恐れの欠如を反映しており、心拍数の低い子どもは高い子どもよりも共感力が鈍く、心拍数の低さは不快な生理的状況をもたらし、それを最適なレベルに上げるために刺激を求めて反社会的行動に走るという研究結果である。

このような反社会的行動と心拍数の関係をまとめた実験からわかるように、脳は家庭や学校のような外的な環境よりもむしろ体内の生理的な刺激から強い影響を受ける。
子どもを育てる親にとっては受け入れ難い事実だが、言い換えればこれは犯罪(の一部)が治療可能な病気であることを示している。子どもが快楽(=心拍数の上昇)を求めて罪を犯すのであれば、その前に心拍数を高める別の手段を与えてやれば良い。診療所ででん今日が装置された帽子を被せられ、ビデオゲームをさせられた少年院あがりの子どもが、ゲームに集中するうちに非行な態度が全くなくなり、オールAの優秀な生徒に変貌した話も上がっている。

顔の作りと暴力性

私たちの日常的な判断は、視覚(見かけ)に大きく依存している。
「幅の広い顔」の男性は「面長の顔」の男性に比べて攻撃的だと判断される(幅の広い顔の男性の方がテストステロン値が大きく、攻撃的な傾向が高いことは科学的に証明されている。)
「幅の広い顔」の男性は暴力的な外見と認識され、採用面接の際排除されやすくなるかもしれない。
ただ彼らは集団に属すると無意識のうちに周囲からリーダーと見なされる。
周囲の人々は「幅の広い顔」の男性に危害を与えられることを恐れ、持ち上げるからである。

子どもの人格を決定するのは「遺伝」と「環境」

「子どもの生まれ持つ知能の7~8割は遺伝で決まる」と前述した。しかし一方、アメリカの心理学者ジュディス・リッチ・ハリスの提唱する集団社会化論では、「子どものパーソナリティ(人格)は遺伝的な適性と友達関係との相互作用の中でつくられる」と考えられている。

同じ遺伝子を持って生まれた一卵性双生児でも、環境によってその後の人生が大きく変わることがある。
ピアノの才能を持って生まれた兄は、優秀なピアニストに囲まれた環境で育つと自分の才能に限界を感じ、
スポーツの道に活路を見出すかもしれない。同じくピアノの才能を持って生まれた弟は、一般的な公立学校で教育を受ければ周囲とは違うピアノの才能を見出され、ピアニストとしての道を踏み出すかもしれない。
ハリスの集団社会化論によれば、家庭環境よりも子どもの人生に大きな影響を与えるのは学校だ。
だからといって親が無力なのではなく、親の一番の役割は「子どもの持っている才能の芽を積まないような環境を与えること」だとハリスは言う。最も、その環境選びはとてつもなく難しいものなのは間違いないが。

所感

結論だけ書くと子どもの人格は親の努力では動かし難く、遺伝で7~8割型、残りを友だちと過ごす環境で左右されてしまう、というなんとも後味の悪い感じになってしまう。
ただし、不要な道徳論に左右されることなく、科学的に証明されてしまっているこの情報を正しく認識した上で、これからの社会をどのように変えていけばいいのか、子どもをどのような環境に置けばいいのか、考えるきっかけを与えてくれる。
思えば自分自身の人格も親譲りかつ、育ってきた学校環境によって構築されたというのは頷ける。
「面長な自分」が「幅の広い顔の自分」に生まれ変わることは今後も無理なのだろう。
だとすれば「面長の良さ」を伸ばしていくためにはどうすれば良いか、思考を変えていかなければいけない。
自己啓発をしてくれる本ではないが、現実を捉えた上で25年間生きてきて確立された自分がどのような人格で、何が得意で、どういった振る舞いをして今後も生きていくべきなのか、じっくりと考える契機になる一冊だった。新書は時間かかるけど深く読むとおもしろい。

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